« 『シモン・ボッカネグラ』(パリ・オペラ座) | トップページ | 猛暑であららん~日本代表、サウジに敗戦 »

2006/09/04

『モーゼとアーロン』

Cineken2_logo_3

Moisetaaron_1orfeo.blog=CineKen2
共同企画:

▼シェーンベルク《モーゼとアーロン》
(墺=西独、1974)
Jean-Marie STRAUB & Danielle HUILLET,
MOSES UND AARON 

出演:
ギュンター・ライヒ(モーゼ)
ルイ・ドゥヴォース(アーロン)
エヴァ・チャーポ(少女)、ロジェ・リュカ、リチャード・サルター(若い男)、ヴェルナー・マン、アルディン・M・アリ、アドリアーノ・アプラ、ヴァルテル・グラッシ、マルコ・メラニ(司祭)、ラディスラフ・イラフスキ(エフライミット)、フリードル・オブロフスキー(老女)、ヘルムート・バウマン、ユルク・ブルト、ニック・フララント、ヴォルフガンク・ケーグラー、ミヒャエル・モルナ−ル(踊り手)、ハンス=ペター・ベーフゲン、ハラルド・フォーゲル(戦士)、他

オーストリア国立放送管弦楽団+合唱団(合唱指揮ゴットフリート・プラインファルク)
指揮:ミヒャエル・ギーレン
制作・監督・編集・仏語字幕:ジャン=マリ・ストローブ、ダニエル・ユイレ
脚本&音楽:アーノルト・シェーンベルク
撮影:レナート・ベルタ、ジョヴァンニ・カンファレッリ=モディカ、サヴェリノ・ディアマンテ、ウーゴ・ピッコーネ
録音:イェーティ・グリジョーニ、ルイ・オシェ、エルンスト・ノイシュピール、ジョルジュ・ヴァリオ
衣裳:アウグスタ・モレッリ、レナータ・モロニ、マリア=テレザ・ステファネッリ
振付:イヒェン・ウルリヒ
助監督:パオロ・ベンヴェヌーティ、ハンス=ペーター・ベーフゲン、レオ・ミングローネ、ゼバスティアン・シャートハウザー、ガブリエレ・ソンチーニ、ハラルド・フォーゲル、グレゴリー・ウッズ

(2006年09月01日、 Cinémathèque Française - Salle Jean Epstein-)

データはこちら↓
IMDb : http://www.imdb.com/title/tt0071857/fullcredits

 ジャン=マリ・ストローブ&ダニエル・ユイレのものは《アンナ=マグダレーナ・バッハの年代記》(>関連項↓:西独=伊、1967)1本だけ見ときゃいいやな…と思ってたら、こういうのがありました。映画とオペラの関係に興味を持つ人は、厭でも(笑)一度は目を通しておくべきフィルムに違いない。つまんないと思ったら大間違い!…。実は、僕だって、ま〜たストローブ&ユイレかよう!…、あいつらシネマテークに強力なコネがあるんじゃねえの?…なんて、ジョージ・キューカー《ホリデイ》の最後のところを端折って、半ば義務的に見に行ったんですわ。
 案の定、のっけからスクリーン一杯に旧約聖書の独訳がドーンと出まして、例によって、まったく抑揚というもののない声で朗読が始まっちゃったもんで、ウヘーおいでなすったぜい!なんて思って、途端にもう睡魔にやられそうになってたら…音楽が始まるなり、ガバッと起き出して真剣に付き合い出しちゃった。すごくいいんです!…。確かに音楽が始まったって、例によって例の通り、ギュンター・ライヒのどアップばっかり映してる場面が延々と続く(笑)…とはいうものの…ですな。
 なるほど、シェーンベルクという人は一種天才肌の人だね。この人の《浄夜》とR・シュトラウスの《変容》あたりを較べてみると一目瞭然ですが、こんな主題のオペラを作ったって、音楽がめったやたら官能的なんだ。うん、これはもう、ドイツ音楽というよりもむしろドビュッシーなんかに近い音楽だよね!…。これをワーグナーかなんかの亜流のように作っちゃいけないんだよ!…。《グーレの歌》がワーグナーの亜流ってんだったらよくわかる。でも、《モーゼとアーロン》はもう全然違う音楽なんだ。ミヒャエル・ギーレンはそこのところをものの見事に出してて、決してブ厚い作りにしてない。スクリーンに出ない管弦楽はかなり大編成っぽいんですが、決してその重さや厚みを感じさせない。通常、このオペラの舞台上演には巨大な合唱が出てくるけれど、ここでは、まるでバロック合唱団みたいな小編成、それも極度に錯綜したポリフォニーだから、精鋭声楽アンサンブルみたいなのが担当してる。そう、ルネッサンス時代のポリフォニー以来、合唱音楽に関して最も本質的な仕事をしたのはシェーンベルクだったのかも知れないなあ…なんて考えも頭を過ぎります。へーえ、シェーンベルクって、こんなにも官能的な音楽なんだ!…って驚いてるうちに2時間くらいはあっという間に経って、最後まで行っちゃうのだよ。
 それから、このフィルム、客寄せパンダってな具合に、企画力のない歌劇場総監督が、舞台経験皆無ってな風な映画監督を呼んできて、舞台美術だけは立派なのを作って、演技は歌手任せってな調子ででっち上げた…とか、オペラ・ファンをニヤリとさせるために衒ってオペラを映画に入れてみたといういい加減な代物とは次元が違う。ストローブ&ユイレといのは、それこそ資金集めから、最後の編集段階まで(おまけに仏語字幕まで)全部自分たちでやっちゃうチームなんで、これが撮りたいと思って自発的にやった仕事。そりゃ、このチームの映画だから取っ付き難くないことは決してないけど、それだけのことはあるんだよね。
 ロッシーニみたいにモーゼの一言で紅海が真っ二つに分かれて…なんて特撮もなければ、物語だってない。神様は表象できるか、できないか?…とかの形而上学的議論に終始するわけで、そんな内容だから、管弦楽の方が逆に、ムンムン匂い立つような官能性に咽せ返っている。場所はほぼすべてローマ時代の古代劇場か競技場の廃墟。そのアレーナの中で儀式であって同時に演劇でもあるパーフォーマンスをやって、そいつをキャメラに収めてる。それに、蛇は出るし、黄金の仔牛は出る…とことさらテクストに忠実で具体的なところがあって、わざわざ舞台をほぼアレーナの中だけに限定した演劇的な作りに、ちょうど様式的な演劇の舞台に超写実的な要素を持ち込んだ時にも似た、極度の写実が写実そのものを超えちゃうという奇妙な感覚を産み出しているんだ。あの白い蛇なんかの生々しいこと!…。
 …というわけで、これは一度は目にしておくべきフィルム。ストローブ&ユイレというのは画が異常にキレイなところがあって、1時間半くらい、学者先生の講義やエンペドクレス哲学者のお喋りが続いたって、そのエンペドクレス先生のどアップの顔に写る葉っぱの翳とか、フィルムの最後の最後に森の中を小川が流れてて、光と影の交錯するやたら美しい木漏れ日なんかがチラッと出るだけで、それまでなんじゃいこれ?…てな具合に退屈してた映画を全部許しちゃう…ようなところがあるんだね。
 撮影がレナート・ベルタ。ただ、その点非常に残念なことに、今回上映されたプリントは、既に変色しちゃってて、総てが赤茶けた色になっていた点。想像で補って、ああ、こういう岩山の山並みはオリジナルではキレイだったんだろうなあ…、ナイル川の水も本当はこんなに赤茶けてなかったんだだろうなあ…なんて考えながら見るのは、特にこういうフィルムでは、やっぱし、ちょっとシンドイなあ!…。

CineKen2

関連項:http://perso.orange.fr/kinoken2/cineken2/cineken2_cont/cineken2_archive/forum0604.html#979
仏国立シネマテーク:http://www.cinematheque.fr

|

« 『シモン・ボッカネグラ』(パリ・オペラ座) | トップページ | 猛暑であららん~日本代表、サウジに敗戦 »

コメント


CineKen2さん、寄稿ありがとうございました。

面白そうですね、これ。ちゃんと日本国内でもDVDが出ているようなので、大きめのレンタル・ショップで探してみます^_^;;

投稿: Orfeo | 2006/09/04 20:17

うわっ、アラビアのロレンスかと思いましたよ。

Orfeoさん、買わないんですかぁ。あと在庫3だそうです。
きのけんさんのおすすめですけど6300円に躊躇してます。2006年1月発売で、これだけお高いということは修復して発売しているのかしら。

この音楽ぜんぜんしりませんけど、モーゼは歌わない役ですか。

投稿: keyaki | 2006/09/04 21:06

変な質問しましたけれど、忘れて下さい。

>モーゼは歌わない役ですか
というのは、

「モーゼは指揮者のルイ・ドヴォス、アロンはギュンター・ライヒ(バリトン)が演じている。」と発売元の解説に書いてあったので、、、、

ルイ・ドヴォスは、テノールで指揮者のようですね。ドミンゴみたいなもんですか。
それに、ルイ・ドヴォスは、アロンで、ギュンター・ライヒがモーゼのようですね。間違いだらけの解説文ですね。

投稿: keyaki | 2006/09/04 21:25


keyakiさん、どうもです。

>Orfeoさん、買わないんですかぁ

今現在買いたい、買うつもりというDVDが多すぎて、ちょっとすぐには、ねえ・・・。
これ、一応「映画」でしょ?ならば、keyakiさん、お願い!(爆)

投稿: Orfeo | 2006/09/04 22:17

 このチームの作るものを神様のごとく崇めている連中ってのがいまして、一度くらいは、何がそんなに面白いのか説明をうかがいたいと思ってるんですが、このチームのものを褒める人たちってのは、非常にマゾヒスティックに、映画は退屈であれば退屈なほど芸術価値が高いという信念を信奉しきってるみたいなんですよねえ…。それで、訊ねてみると、やれ商業主義を徹底して排してるだとか、通常の映画を作らない…とか、答にもならない答ばっかり返ってくるんだからシャクにさわるんだ。それだけで映画が面白くなるんなら、こんなに簡単なことはないじゃない!。
 …というわけで、退屈覚悟で、半ば義務として見に行ったら…、そりゃ、orfeo.blogにレヴューを入れてやれくらいの下心はありましたが、結構面白かったんで、自分自身でいちばん驚いてます(笑)。少なくともギーレンの演奏は、この曲のイメージを一新させたものでした。

>アラビアのロレンス

 …まさにそうなんです。この人たちは、非常に正統的な映画の撮り方をしてる。思わせぶりで物欲し気なところも全然ないし…、意外といいとこあるじゃん?…なんて言うと、また Bowlesさんにおこられるかな?(笑)。
 最後にギュンター・ライヒは当時現代オペラのバリトン役の世界的権威でしたねえ…。この人がたまたま病欠したりすると、代わりに出来る人がいないもんで、公演そのものが中止になっちゃったり…。ベルント=アロイス・ツィンマーマンの《兵隊たち》とか、ブゾーニ《ファウストゥス博士》とか、世界初演をやったばかりだった《ルル》全曲版があわや中止…なんてこともありました。
きのけん (CineKen2)

投稿: きのけん | 2006/09/05 20:53


シェーンベルクを初めて聴いたのはいつだったかな?たしか高校生ぐらいの頃、ブーレーズ&ニューヨーク・フィルの《浄夜》のディスクを耳にしたのが最初だったような気がしますが、なんだか神秘的な美しさに惹かれたのをよく覚えています。ブーレーズは《モーゼとアーロン》も録音していますよね。
こちらのギーレンの《モーゼとアーロン》も、やっぱり聴きたくなってきたなあ。買うか?(笑)

投稿: Orfeo | 2006/09/06 08:36

私は、18日まですっごく忙しい、といいながらブログの更新はまめにやってますが、ので買うとしてもその後ですね、さっきみたらまだ在庫3でしたから、Orfeoさんが注文するとすぐわかりますよ、在庫2になるでしょうから。
それと紀伊国屋に、画像の修復しているかどうか問い合わせてみようかな、なんて思っています。

新国立も明日から、シーズン開幕ですし、ライモンディのファルスタッフもあるし、やっぱり、マイナーなオペラで、チケット高すぎですから、売れてないみたいですよ。

投稿: keyaki | 2006/09/06 09:50


keyakiさん、どうもです。
どうせなら売り切れてくれて、中古品が安く出て来るのを待つべき、かも?紀伊国屋にお問い合わせの際は、是非結果を教えて下さい。

>マイナーなオペラで、チケット高すぎですから、売れてないみたい
これって、新国の『ドン・カルロ』のことですか?それとも、フィレンツェ歌劇場の『ファルスタッフ』のこと?

投稿: Orfeo | 2006/09/06 12:14

>>マイナーなオペラで、チケット高すぎですから、売れてないみたい
もちろんファルスタッフです。新国は、私もですけど、けっこう固定客ついてますから、歌手さんがデコボコでも劇場がいいですからネ、、

紀伊国屋書店に問い合わせてみました。
とてもきれいで鮮明だそうです。
ここは、高島屋の紀伊国屋書店の会場で、DVDの上映会をしますけど、この作品は予定はないそうです。
ううーん、悩みますね。

投稿: keyaki | 2006/09/06 15:38


やっぱりファルスタッフですか。そりゃそうですよね。新国のチケットが馬鹿高ってのも変だし・・・。でも、ファルスタッフって、マイナー?(笑)

紀伊国屋の情報、ありがとうございます。ふ~ん、そう言われると、見たくなりますよねえ。今日、こっちで一番品揃えが豊富なレンタル屋を覗いてみたんですが、さすがに置いてなかったです。考えてみりゃ、オペラはもちろん、オペラ映画のDVDって、レンタル屋で見掛けたことないですもんね。ミュージカルはあるのに、なんでだろ?需要の問題?それとも業界の問題?
その後、タワーさんにも寄ったんですが、そちらの映画コーナーにはちゃんと置いてありました。しっかり定価で(笑)。皇室男子誕生を祝って(?)、買っちまおうかとも思ったんですが、オペラDVD・コーナーにあったシェローの《コジ》と某大物演出家の《魔笛》とを交えた熾烈な戦い(?)が繰り広げられ、あえなく敗れ去りました、とさ(笑)。

投稿: Orfeo | 2006/09/06 17:35

Orfeoさん、こんにちは。
縁あって、この映画を見ました。
いつものようにTBしますので、よろしくお願いします。

投稿: edc | 2007/10/21 07:49


edcさん、毎度ありがとうございます。
私は縁なくて、まだ未見です。
ずっと気になっているんですが・・・

投稿: Orfeo | 2007/10/21 15:25

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/122009/11758351

この記事へのトラックバック一覧です: 『モーゼとアーロン』:

» シェーンベルク「モーゼとアロン」映画 [雑記帳]
シェーンベルク:モーゼとアロン 映画 1974/75年制作 ダニエル・ユイレ、ジャン=マリー・ストロープ監督 ミヒャエル・ギーレン指揮 オーストリア放送交響楽団 モーゼ:ギュンター・ライヒ アロン:ルイ・ドゥヴォス この映画に関する詳しいことは、Orfeoさんのオペラ・レビューを参照してください。 旧約聖書でおなじみの物語で、あまり変化のない映像が続くのですが、音楽の力でしょうか、思ったほど退屈しません。ベルリン国立歌劇場来日公演の舞台とは違って、旧約聖書の物語通り、非常に写実的です。杖は... [続きを読む]

受信: 2007/10/21 07:50

« 『シモン・ボッカネグラ』(パリ・オペラ座) | トップページ | 猛暑であららん~日本代表、サウジに敗戦 »