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2006/07/14

『ドン・カルロス』(シャトレ座)

Dvddon_carloschatelet DVDライブラリーより。

シラーの戯曲(1787)に基づくヴェルディの歌劇。

1867年のパリ・オペラ座での初演(フランス語、グランド・オペラ形式による5幕版)以来、ヴェルディ自身が度々改訂を重ね、今日では1886年のイタリア語5幕改訂版(通称"モデナ版"、あるいは"リコルディ5幕版"ともいう)、もしくは1884年のイタリア語4幕改訂版(通称"リコルディ4幕版"といい、フォンテンブローの場面がない)での上演が一般的になっている作品だが(ただし、初演の時点ですでにカットが入っている)、その100年ぶりとなるフランス語5幕版の公演として大々的に宣伝されたプロダクションだ。だが、この手の宣伝文句は往々にして怪しいもので、実際、1980年代にパリ・オペラ座がプレートルの指揮でフランス語5幕版による上演を行っているらしい。このシャトレ座の公演では初演版に近い内容に戻っているものの、バレエの場面はカットされたままで、その後の版から取り入れられた部分もあり、ここは新たなシャトレ座版として考えるのが適当のようだ。

長大で多彩な劇的効果を含むこの作品に対し、ボンディはここで過剰な装飾を剥ぎ取り、スペイン宮廷の壮麗な華やかさは排除し、すっきりとした簡素な舞台にまとめ上げている。衣裳は概ねモノトーンで統一されているが、そこに印象的な色使いを加え、カルロスがエボリ公女をエリザベートと取り違えるのを自然に見せるなど、視覚的な説明付けも施されている。ジル・アイヨーの手による、その黒を基調にした、暗く陰影に富んだ舞台の中で浮かび上がってくるのは、カルロスとエリザベートの悲恋や、ロドリーグの非業の死といったものよりはむしろ、フィリップ2世の絶望的な孤独感だ。それぐらいジョゼ・ヴァン・ダムが素晴らしい。この映像はアラーニャをメインにして売り出しているけれど、そして確かにアラーニャも悪くないんだけれど、このヴァン・ダムの前では霞んでしまう。他にもハンプソン、マッティラ、マイヤーなど、強力なキャストで固められているが、コーラスを含め、ところどころ粗い部分があるのはライブ収録ゆえ、致し方ないところだろう。パッパーノの流麗な音楽の進め方が、ボンディの簡潔な演出とよくマッチしていて、興趣を添えている。

なお、版の異同に関しては、Sardanapalusさんフンメルさんのところに詳しい記事が出ていますので、そちらを参照なさって下さい。

★★★

フィリップ2世:ジョゼ・ヴァン・ダム
ドン・カルロス:ロベルト・アラーニャ
ロドリーグ:トーマス・ハンプソン
エリザベート:カリタ・マッティラ
エボリ公女:ワルトラウト・マイヤー
大審問官:エリック・ハーファザン
修道士/カール5世:チャバ・エリゼー
ティボー:アナート・エフラーティ
天の声:ドンナ・ブラウン
レムル伯爵/王の使者:スコット・ウエアー

合  唱:シャトレ座合唱団
管弦楽:パリ管弦楽団
指  揮:アントニオ・パッパーノ
美  術:ジル・アイヨー
衣  裳:モワデール・ビケル
演  出:リュック・ボンディ

[  収録:1996年3月16日、パリ・シャトレ座  ]

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コメント

 これ、僕も実演を見てます。でも、これって、シャトレ座、ニース歌劇場、ブリュッセル・モネー座、コヴェント・ガーデン…その他6っつくらいの歌劇場の共同制作なんですよね、リスネル得意の…。なるほど、今回はシャトレ座で収録したのか!…。でも、普通あすこで収録したものを商品化するのは皆さん厭がるんだけどねえ…。というのも、シャトレ広場というのはパリ市内でもいちばん地下鉄が集中している場所なんで、どうしても地下鉄の地響きが入っちゃうんだよ。例えば、DGGが立ち上げたジョン=エリオット・ガーディナーのモーツァルト・オペラ・シリーズは当初の予定では全部、舞台上演の機会にシャトレ座で録音されるはづだったんです。ところが第一弾《ティートの寛恕》を録音し始めて、どうしても地下鉄の響きが入っちゃうのが判って、全部キャンセル。ロンドンで録音し直す計画に変更になったんです。少なくともオーディオCDの方でシャトレ座での録音が、皆無ではないみたいですけど、存在しないのはそのためなんです。確か、セミヨン・ビショコフ指揮パリ管盤《エフゲニ・オーネギン》もそうだったよ。いざセッションを初めてみて、すぐミューチュアリテに会場を移しちゃった。シャトレ座ってのは音響がいいもんで、どうしても録音に使いたくなるんだけど、いざ録音セッションを始めてみると、地下鉄の音が入っちゃうんで、会場を移さざるを得なくなっちゃうんだ。

 この《ドン・カルロス》(仏語版だから「カルロス」)、なんか印象が薄いんですよ。そうそう、アラーニャが結構良くて…というのは、当時未だ《ラ・ボエーム》のロドルフォだとか、《椿姫》のアルフレードだとか、軽い役ばっかりやってたアラーニャにカルロなんてドラマティックな役ができるわけがねえや!…とタカをくくってたら、仏語版ということもあって意外といいんで驚いた憶えがあるんです。それとヴァン・ダムね。こっちも、あんな深いバスの役を!…ザラストロでまだ懲りてないんだ…なんて思ってたら、結構感動的だったのをよく憶えてます。それはDVDでもよく伝わってるみたいね。ただ、閉口したのはトーマス・ハンプソンで、あのでっかい男が、のっしのっしとカウボーイみたいにすごい大股で動き回るわけよ。ヴァン・ダムとアラーニャがチビなんで、それが目立って目立って!(笑)。あいつが出てくると、やたら目障りなんだよねえ〜。
 それから、実演でちょっと、こりゃミス・キャストじゃねえの?…って思ったのがマイヤー様。確かに、彼女は、バレンボイム、ビシュコフ&カーディナー各々でベルリオーズ《ファウストの劫罰》のマルグリートまで歌ってるんだけれど、エボリ姫にはちょっとかなり手こずっていたという印象が残ってるんですが如何でしょう?…。つまりエボリ姫というのは、ソプラノあるいはメゾ・ドラマティック・コロラトゥーレという特殊な声と技術が必要なんだよね。それこそ、全盛時のシャーリー・ヴァーレットとかアグネス・バルツァ…、エッダ・モーザー(…は声が明るすぎるか?)みたいなドラマティックな役ができて、その上コロラトゥーレの技術を身に着けた人でないとちゃんとは歌えない役なんだよね。やっぱし、イゾルデ様じゃあ、ちょっとキツかったという印象なんです。
 最後に、パッパーノがかなり精緻な演奏を心掛けていた…分だけスケールが小さくなっちゃったという印象が強いなあ…。なにも流石の僕だって、毎回ジュリーニさんの録音を見本にしてるわけじゃなくて、なるたけあれを忘れるようにして聴こうと涙ぐましい(笑)努力を惜しまないんですがねえ…、英国人指揮者のつまらない面が出ちゃったという感じだったんです。そう、アラーニャがフランス人であるのと同様(シチリア系の移民の息子らしい)、パッパーノというのも英国人で、長いことバレンボイムの助手を務めていた時代は「アンソニー」を名乗ってて、モネー座の音楽監督に任命された時に「アントニオ」になったんだよね(笑)。あいつが、ちょっと優等生的と言うか?…。
 そのパッパーノとサイモン・ラトルを一日違いでワーグナーで聴き較べたことがあるんです。アムステルダムでラトル指揮ロッテルダム・フィルをピットに入れた《パルジファル》を聴いたほんの翌日がブリュッセルのモネー座でパッパーノ指揮モネー座管の《トリスタン》だったんですが、これは鮮烈に違いが出ましたよ。ラトルのは、それこそ総譜の全ての声部が透けて見えてくるような明晰、分析的な作りで、それでいてよく歌うし、ワーグナーの勘どころをちゃんと押さえていて、ちゃんとワーグナー節が出てるし(ちょっとブーレーズみたい)、ああ、こういう演奏をするんだったらベルリンとかウィーンみたいな重量級の団体ではダメなんで、ロッテルダム・フィルみたいな軽量級こそ理想的なオケ…というくらいにこの団体の特質を活かした演奏になっていて、大満足。
 ところが、翌晩のパッパーノの方は、モネー座のピットにバイロイト風の覆いを被せちゃってて、オケの各声部がミックスされて、団子状になって響いてくるわけ。要するにバレンボイム式で、モネー座くらいの規模のホールでは、それが結構上手く行ってんの。おお、なかなかやるじゃん!と思ったわけなんですけど、やっぱし、前の晩ラトルを聴いていると、あっちでこういう演奏をやるんだったらロッテルダム・フィルこそ理想的と思わせられたのとは裏腹に、オケの音が見事に混淆したこういう団子式をやるんだったら、そりゃ、バイロイトとか、ベルリンでもウィーンでもいいですが、ドイツの重量級の団体の方が全然いいよね!…って感じさせちゃうわけよ。そこで、ああやっぱりラトルの方が一枚上手なんだと思ったというわけ。

 最後にこのシャトレ座での《ドン・カルロス》に抱いた最大の不満が、フランス語上演にあったんじゃないかな?…。そりゃ、オリジナルが仏語で書かれたフランス・オペラの様式に則ったものだとはいうものの、ヴェルディの頭の中で鳴っていたのは、やっぱりイタリア語なんじゃないの?…。フランス語でやっちゃうと、どうしても間の抜けた感じがしたけど、如何なもんでしょ?…。アバドはスカラ座200周年記念版ではこれとほぼ同じものをイタリア語でやってるよね(ディスクは仏語だからよくない!)。やっぱしあっちの方が迫力あったなあ…。初っ緒のカルロとポーザ侯の二重唱からして(あっちではカレーラスとブルーゾンだった)、仏語でやると、なんかフニャララしてんだよね(笑)。
きのけん

投稿: きのけん | 2006/07/14 18:25


きのけんさん、詳細な解説、ありがとうございます。シャトレ座って、でも結構DVD出してますよね?企画が優れてるからかな?(笑)

目障りなハンプソンは映像ではそんなに苦になりませんが(爆)、このプロダクションはやはり女声陣に難がありますよね。マイヤー様がミス・キャストってのは、おっしゃるとおりだと思います。私はマイヤー様がイタオペに出てきただけで、もう駄目なんですが、その上、仏語だしなあ・・・(笑)。

パッパーノは、よく言えば「流麗」なんですが、普通に言うと「大人しい」、って感じかな?起伏に乏しいんですよね。そこはたしかに「仏語的」なのかも?

実は、先に予告しちゃうと、次のレヴューはイタリア語版『ドン・カルロ』なんですよ。仏語版と聴き比べると、やはり全然趣きが変わりますよね、このオペラ。

投稿: Orfeo | 2006/07/14 20:14

>マイヤー様がイタオペに出てきただけで、もう駄目なんです
カヴァレリアも苦手でしたよね。マイヤーってフランス語の教師だったんじゃなかったですか。
一般的に、英語圏の連中はなにを歌ってもOKで、ドイツ人がイタオペとかフランスものを歌うと批判されるっちゅのはどういうとこからきてるんでしょう。

ジョゼ・ヴァン・ダムといえば、ライモンディと声が似てるんですよね。マリナー指揮の《フィガロの結婚》なんて、この私がですね、どっちが歌っているのか時々わからなくなります。
彼は、つい先日、ボリスを歌ったようですが、すごいですよね。ライモンディより一才年上ですよ。それにバス・バリの中では、一番レパートリー多いのではないですか、ドミンゴに匹敵するかも。

>次のレヴューはイタリア語版『ドン・カルロ』
これっていっぱいありますね。メト、ロンドン、ザルツブルグ、スカラ、、、、三大テノール+リマ 
最近もっと出てましたかしら?

投稿: keyaki | 2006/07/15 12:34


keyakiさん、どうもです。

>カヴァレリアも苦手でしたよね
よくぞ覚えていて下さいました(笑)。いやあ、私もきのけんさん同様、なるべく偏見を持たずに(・・・偏見の塊り、という噂もありますがw)、まっさらな目で・・・じゃなかった、耳で、聴こうと努めているつもりなんですが、どうにも違和感を覚えてしょうがないんですよ。なんでだろ?このへんは、専門家のきのけんさんに是非解明してもらいましょう(・・・と、逃げるw)。

ジョゼ・ヴァン・ダム、そんなにライモンディと声が似てるんですね。keyakiさんがおっしゃるなら、間違いない!

次の『ドン・カルロ』は、その中のどれか、ですよ。結構いろいろと出てるんですねえ。ま、どれが出てくるかは、フタを開けてのお楽しみ、ということで^_^;;

投稿: Orfeo | 2006/07/15 14:50

>偏見を持たずに
同様ですけど、この映像、テレビで途中から見ちゃったんですが、アンドレア・シェニエの人民裁判所かと思っちゃいました。それにしては、
>なんかフニャララ
してて、あら、フランス語なのね?!で誤解はすぐ解けましたけど・・・ Orfeoさんと違ってエボリ公女様は違和感なかったです^^; エリザベッタ王妃様のほうがむしろ、どうもね、やぼったくて・・・ 

この映像に限らず、このオペラ、どうも苦手というか、散漫な感じになっちゃうんですね。自分の中で、焦点が定まらないというか・・・ 夢中にさせてくれるのにまだ出会えてないみたいです。

投稿: edc | 2006/07/15 22:03


edcさん、どうもです。

う~む、人それぞれ、なんですね^_^;;でも、確かに「人民裁判所」っぽいかも?スペイン宮廷にしちゃあ、やけに殺風景ですもんね。

このオペラ、さすがに初演からカットが入っただけあって、長過ぎますよね。こういう暗いムードのお話は大好き(?)なんですが、ちょとツライ・・・

投稿: Orfeo | 2006/07/16 09:05

Orfeoさん:
>シャトレ座って、でも結構DVD出してますよね?企画が優れてるからかな?(笑)

 それはジャン=ピエール・ブロスマンのせいなんです。リスネル時代は、企画が立てば乗ってもいいってな感じで、リスネル自身は自分で動こうとはしなかったんですが、ブロスマンが昔からそういうことが大好きなんだよね。keyakiさんもお持ちのロストロ盤《ボリス》にもキャスティング顧問とかで参加してるでしょ。リヨン時代も主な制作は全部ヴィデオで出してたよね。日本のパイオニアが一枚加わってまして、僕も仲を取り持ったことがあったよ。パイオニアさんにはタイユヴァンで接待されちゃったぜ。あんなとこで接待されたのはあれが最初にして最後。そうか、パイオニアさんってのは、カラオケで大儲けした会社なんだ…なんてその時気付いたというわけ。

>マイヤー様

 そうです、彼女、プロの歌手になる前はフランス語の先生をしてたんだよね。独語訛りもほとんどなくて完璧に喋ります。
 マイヤー様に限らず、ドイツ人のイタリア物って、僕も苦手ですねえ…。ミュンヒェンでフィッシャー=ディスカウのファルスタッフを聴かされたけど、ありゃまいったよ!(笑)。サヴァリッシュとDFDでクソの付くマジメが二人集まって、もう、面白くないの!…。ほんと、あの人、ヴェルディなんかやらなきゃいいのにねえ…。リゴレットだとかジェルモンだとか、結構やってるでしょ。ああいうのがいいっていう人いるんだねえ…(笑)。
 あれから、シャーリー・ヴァーレットのエボリ(ジュリーニ)とマクベス夫人(アバド)を聴き直してみたけれど、やっぱりあれはすごいよねえ…。

edcさん:
>エリザベッタ王妃様のほうがむしろ、どうもね、やぼったくて・・・

 あっ、それ、憶えてます!。そうそう、カリタ・マッティラは、マイヤー様みたいに技術的に問題があったというわけではないんだけど、なんかちゃんと歌ってますってだけで全然面白くなかったなあ…。でも、彼女はその後数年間で見違えるように良くなったですよ。あの人、1980年代にパリ管のモーツァルト・オペラ・シリーズにバレンボイムが引っ張ってきた人なもんで、デビューした頃からわりとよく聴く機会があったんです。そうそう、あのモーツァルト・シリーズでパリ・デビューしたのがこの人と、チェチリア・バルトリで、この二人が出世頭。パリにはバレンボイムが引っ張ってきたんです。マイヤー様を呼んできたのはマレク・ヤノフスキで、1980年代中盤ヤノフスキの振るワーグナーには軒並み出てた。それがしばらくして、バレンボイムに乗っ取られて(寝取られて)、ヤノフスキの方には出なくなっちゃったんだ。
きのけん

投稿: きのけん | 2006/07/17 08:14

>彼女はその後数年間で見違えるように良くなったですよ。

そういえば、これもテレビですが、
シモン・ボッカネグラのアメリアはほんとに素敵でした。(フィレンツェ五月祭2002年)

投稿: edc | 2006/07/17 09:18


>きのけんさん
な~るほど、ブロスマンの仕業かあ!そういや、リヨンの映像ってのも多く出てますもんね。ウチには少ないけど・・・。それにしても、タイユヴァンで接待ですか!そりゃ美味しい仕事でしたね(爆)。

シャーリー・ヴァーレットのマクベス夫人はウチにもシャイーの映画版がありますけど(cf. http://orfeo.cocolog-nifty.com/orfeoblog/2005/10/post_e5e7.html )、あれは強烈でした。この人の声域は広いし、おまけに強靭かつしなやかだから、凄いですよねえ。

マイヤー様はバレンボイムの前はヤノフスキだったんですね。そいつは初耳(笑)。

>edcさん
こんにちは。
その《シモン・ボッカネグラ》、是非観たいです。

投稿: Orfeo | 2006/07/17 10:25

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