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2006/05/11

『トロイ人』(シャトレ座)

Dvdtroyens DVDライブラリーより。

ベルリオーズ作。古代ローマの叙事詩人、ヴェルギリウスの「アエネーイス」に題材を取ったその台本も作曲者自身の手によるもの。

ベルリオーズ生誕200周年を記念して制作されたプロダクション。舞台美術家出身のヤニス・ココスらしく、視覚効果に富んだ趣向で舞台を彩っている。第1部のトロイ陥落の場面では、舞台奥全面を巨大な鏡で覆い、前傾したその鏡に床に描かれたトロイの城壁の絵姿と、舞台上の人物の姿とが映し出される。勿論、既に最近はいろんなところで用いられている手法だが、群集場面での効果はさすがに抜群で、さらに床が開いてその下からカッサンドラが現われてくる場面など、二重映しならではの幻惑的な情景を瞬時に作り出すので、見ていてなかなか面白い。この第1部は、他は黒一色なのに、一人だけ純白の衣裳を身に纏ったカッサンドラのアントナッチがさながら独り舞台といわんばかりに熱演、熱唱している。

第2部のカルタゴは雰囲気が一転する。鏡は消え、額縁舞台の中をさらに枠で囲み、その背景には青みがかったホリゾントを配置する。海を意識したそのシンプルな構図のセノグラフィーは、どこか80年代にパリで観たヴィテーズ演出による『繻子の靴』の舞台を彷彿とさせるものがある(・・・と思ったら、あの舞台美術を担当していたのがまさしくこのココスだったことを思い出したw。詳しくはこちらをお読み下さい)。終盤再び鏡を登場させ、巨大な階段を使った幾何学模様の構図で印象的な舞台を作り出している。幕切れでは、第1部で出て来たトロイの城壁の模様がゆらゆらと揺れ動きながら舞台全面に影絵のごとく映し出されるが、このへんの美的感覚はさすがにココスならではだ。

第2部の主役はグラハムだが、アントナッチが第1部で頑張りすぎたので(笑)、少々割を喰ってしまったようで、今ひとつ声の通りに不満を感じる。が、感情表現のほうはさすがに巧みだ。クンデを始めとする男声陣も充実しているが、なにより、全編に亘ってコーラスが大活躍するこの作品で、モンテヴェルディ合唱団とシャトレ座合唱団が淀みなく美しく、かつ力強い歌唱を響かせているのが素晴らしい。ガーディナーの手堅い手腕の成せる業だろう。その手兵、オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク(長過ぎるよ、この名前!w)も、ベルリオーズの劇性に富んだ音楽をダイナミックに演奏していて、聴き応えがある。

★★★

ディドー:スーザン・グラハム
カッサンドラ:アンナ・カテリーナ・アントナッチ
エネアス:グレゴリー・クンデ
コレーブ:ルドヴィク・テジエ
ナルバル:ローラン・ナウリ
アンナ:レナータ・ポクピク
アンドロマック:リディア・コルニョールドー
アスチュアナクス:イポリート・リュカヴィエリス
イオパス:マーク・パドモア
アスカーニュ:ステファニー・ドゥストラック
ヒュラス/ヘレヌス:トピ・レフティプー
パンテー:ニコラ・テステ
ヘクトルの亡霊:フェルナン・ベルナルディ
プリアモス:ルネ・シレール
ヘカベ:ダニエル・ブーティヨン
トロイの番兵:ローラン・アルヴァロ、ニコラ・クージャル
ギリシャの隊長:ロバート・デーヴィス
トロイの兵士:ベンジャミン・デーヴィス
プルトンの祭司:サイモン・デーヴィス
ポリュクセネー:フランセス・ジェラード

合  唱:モンテヴェルディ合唱団、シャトレ座合唱団
管弦楽:オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
指  揮:ジョン・エリオット・ガーディナー
演  出:ヤニス・ココス

[  収録:2003年10月、パリ・シャトレ座  ]

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コメント

 あの長丁場、お疲れさま!あの時は僕もかなり疲れました(笑)…。
 僕が《トロイ人》全曲舞台上演なんてのに付き合ったのは2度だけ。このガーディナーのシャトレ座版とバスチーユ・オペラのこけら落としのチョン版 (1)でしたが、チョンの時は、チョン自身はこんなオペラでこけら落としをやるのはいやだ、とさんざんダダをこね、彼自身はショスタコーヴィチ《ムツェンスク県のマクベス夫人》で開幕をやりたかったらしいんですが、蓋を開けてみると、これが大成功。チョンの演奏としても、パリ国立歌劇場時代の彼の最上のオペラ指揮の一つだったし(もう一つがまさにその《ムツェンスク県のマクベス夫人》)、最後を突貫工事で無理矢理こけら落としをやっちゃったバスチーユ・オペラは当初技術問題山積みで(そういや、あまりにヒドイんで技術監督がサジを投げてユーロ・ディズニーに行っちゃいましたよ)、ピエール=ルイジ・ピッツィの安全運転風演出で幕を開けといてよかった。開幕にアンドレ・エンゲル演出版《…マクベス夫人》の舞台なんか技術的に到底できなかったよ。そういや、あの時公演を見に来たガーディナーがチョンの演奏に大感激して、チョンにファン・レター(?)を送ってますね。

(1):http://magicdragon-hp.hp.infoseek.co.jp/KK/kinoken_file00/france/france_9001-9112.html#1990-07

 シャトレ座版の方もヤニス・ココスの無難な舞台でまずまずの成功でした。ただ、ヤニス・ココスというのはヒドイ奴なんで、専門の舞台装置家、Orfeoさんもご指摘の通り、特にアントワーヌ・ヴィテーズの美術番だった彼氏(特にシャイヨー国立劇場時代ほぼ全演出ココスの美術でした)、御大の生存中は、恥ずかしいもんで自ら演出なんてやったことがなかったんだよね(まあ、さる極小劇場で小さな芝居をやってるのを1本だけ見たことがありますが…)。ところが、御大が死ぬやいなや、突然オペラの演出を連発し始めた、それもむしろ外国で…(笑)。なにせ美術番出身で、この人のシンプルで様式化された舞台美術は金がかからないし、演技指導なんてロクにやらんからリハーサルは最低限で済む…、で以後方々で重宝されてますね。
 それでも、最初の頃は結構頑張ってて、まさにそのガーディナーと組んでやった最初の演出、同じベルリオーズの《ファウストの劫罰》(ただしオケはフィルハーモニア管)はなかなかのものでした。というのも、ヤニス・ココスにはサーカスの舞台装置家という余技がありまして、そのサーカスとか大道芸風なスタイルを持ち込んできたんだね。それで結構見れる舞台を作ったんです。
 そういや上のピエール=ルイジ・ピッツィもそうだね。あれはルカ・ロンコーニ付の美術番だった。カール=エルンスト・ヘールマンもペーター・シュタイン付の舞台美術家だったし、ああいう演劇界の大口径演出家の美術番だった奴がオペラ演出に進出することが多いですね。なにせ、舞台美術をおっ立てて、それで終わりっていうやっつけ仕事ができるから!…。それにやっつけ仕事であればあるほど劇場側、歌手側、評論家、ファンから喜ばれるというところがちょっとあるしね(笑)。
 そうそう Orfeoさんの記事を読んで思い出したけど、確かに、ここではアントナッチが見事だったよね。《ファウストの劫罰》の頃はヴァルトラウト・マイヤー様がヒロインだったりしたけど、それがここではバロック系の人たちに入れ替わってる。そりゃ、チョン版のシャーリー・ヴァーレット&グレース・バンブリー…てのも悪くなかったけど(ただ彼女ら、もうキャリア最後で…)、こういうキャスティングも新鮮でいいですなあ!…。まあ、スーザン・グレアムは当時もうワーグナーまで歌ってますが…。
きのけん

投稿: きのけん | 2006/05/14 15:50


そういや、90年代にミンコがピッツィと組んでグルックの『アルミード』をやったとき、ミンコとゆっくり話をする機会があったんですが、「ピッツィは金がかかるよ!」って、やっこさん言ってましたよ。まあ、舞台に金がかかるのか、ピッツィ自身に金がかかるのか、多分その両方だとは思いますけどね(笑)。なにせ強烈な舞台でしたから。新聞評は「舞台上はさながらルーヴル美術館、舞台下のオケ・ピットにもルーヴル(宮音楽隊)のシェフ」なんて書かれてましたっけ。ちなみにその後、ピッツィはスカラ座でもムーティと組んで『アルミード』を出してますが、ほとんど同じ内容だったみたい。同じプロダクションを流用したのかと思い、ミンコにまた別の機会に尋ねてみたら、「それはない筈・・・」と言ってました。でも、どうかな?音楽家は脇が甘いからなあ(笑)。

投稿: Orfeo | 2006/05/14 21:01

アントナッチの記事にTBしていただいたのは、この記事ですよね。
私の方で、TBすると、Orfeoさんの方からもTBができるようになりますので、ご面倒でしょうが、再度お願いします。

投稿: keyaki | 2007/04/16 13:10


keyakiさん、お手数掛けました。
そちらからのTBの方、強制表示させました。
どうも最近TBのシステムが面倒なことになっていますね・・・

投稿: Orfeo | 2007/04/16 16:18

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» アンナ・カテリーナ・アントナッチ [ keyakiのメモ、メモ...]
 フランスのオペラサイト、ODBオペラに アンナ・カテリーナ・アントナッチのインタビューが掲載されています。写真もたくさんあります。昨年末には、コヴェントガーデンで、《カルメン》を歌って話題になりましたし、パリでも《皇帝ティートの慈悲》《ユダヤの女》に出演して好評だったようです。 アントナッチは、1961年4月5日、フェラーラで生まれ、ボローニャ音楽院で勉強。ボローニャ歌劇場の合唱団員として研鑽を積むと同時に脇役もこなす。1980年代後半に、いくつかの国際コンクールで優勝、頭角を現す。レパトリーは... [続きを読む]

受信: 2007/04/16 13:08

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