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2006/05/17

『カルメン』

Dvdcarmenkarajan DVDライブラリーより。

カラヤンの監督の下作られた、オペラ映画第1作。1966・67年のザルツブルク音楽祭で上演されたプロダクションを使用しているが、音声は67年6月にウィーンのゾフィエンザールで収録したもの。映像のほうは同年8月にザルツブルク祝祭大劇場とミュンヘンのスタジオとで収録されている。

一見、丹念に作られた立派な舞台構成ではあるが、カラヤンはここで映像にこだわるあまり、やってはいけないことを犯してしまったような気がする。音声、映像が別録りであることをいいことに、歌手たちに口パクで演技させているようなのだ。動きと声が噛み合わない部分も見受けられるし、また、歌手が朗々と声を張り上げる箇所でも、喉の筋肉はぴくりとも振動しない。とても声を出しているとは思えない。こんな状態でオペラ歌手に演技をさせても、それが自然なものになる道理がない(プロの役者にだって難しいかもしれない!)。歌うことによって表情が崩れることを嫌ったのだろうが、結果、居心地の悪い、というか、気持ちの悪い演技になってしまっている。これがポネルなら、映像と音声が別録りであることを演出の中に巧みに取り入れる度量がある(cf. 『フィガロの結婚』)。だが、カラヤンにはそんなものなどない。見た目重視で表面的に取り繕おうというこの姿勢は、まさに普段(カラヤン嫌いの私が)カラヤンの音楽に感じてしまう性質とぴたり一致するものだ。

その映像はクローズアップが多用されているが、第3幕を元々の設定の山中ではなく、海辺にもってきているのがやや特異。内陸地、ザルツブルクの土地柄を考慮しての設定変更だったようだ。また、別の場面だが、群衆の中にカラヤン自身が混じり込んで、とびきり気色の悪い演技をかましている。これはご愛嬌と思って諦めるしかないだろう(笑)。

音楽面について。歌手の中ではヴィッカーズとフレーニが素晴らしい。当時41歳のヴィッカーズは、まさにこの頃が脂がのった時期に当たるのだろう。スタイルを保ちながらも、伸びやかな歌声を披露していて見事だ。演技も入念で、次第に病的になっていくドン・ホセを鮮やかに演じ切っている。一方のフレーニは55年にモデナでこのミカエラ役でプロ・デビューしている。彼女にとっても大事なこの役を、ここでも清廉かつ流麗に歌い上げている。カルメン役のバンブリーはもうちょっとアクが欲しいところだが、飾り気のないストレートな歌い方は好感が持てる。キャストの中での一番の問題は、やはりエスカミーリョ役のディアスだろう。ここに華がないようでは、このオペラの場合、ちょっと困ってしまう。

なお、『カルメン』をめぐっては、ちょうどこの時期、1964年にドイツの音楽学者、フリッツ・エーザーがアルコア出版から批判校訂版を出し、それまで一般的に用いられていたギロー改訂版(レチタティーヴォを使用)から、オペラ・コミック様式のビゼーのオリジナル(セリフを使用)へ回帰しようという動きが出て来ている。だが、カラヤンはここでは古いエディションを採用し、レチタティーヴォをそのまま歌わせている(80年代になってカラヤンはベルリン・フィルを振って、バルツァ、カレーラスらと共に、セリフを使用したエーザー版での録音も行っている。ただし、セリフの部分は歌手自身ではなく、役者を使っている)。

★★☆

カルメン:グレース・バンブリー
ドン・ホセ:ジョン・ヴィッカーズ
ミカエラ:ミレッラ・フレーニ
エスカミーリョ:フスティノ・ディアス
フラスキータ:オリヴェラ・ミリャコヴィッチ
メルセデス:ユリア・ハマリ
スニーガ:アントン・ディアコフ
ダンカイロ:クルト・エクイルツ
レメンダード:ミレン・パウノフ
モラーレス:ロバート・カーンズ

舞  踊:マリアンマ&スペイン舞踊団
合  唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指  揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
衣  裳:ジョルジュ・ヴァケヴィッチ
装  置:テオ・オットー
撮  影:フランソワ・ライシェンバッハ、エルンスト・ヴィルト
演出・映像監督:ヘルベルト・フォン・カラヤン

[  制作:1967年、ユニテル  ]

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コメント

Orfeoさん、おはようございますー。
えー、口パクってアリなんですか(笑)
オペラは歌声と表情が一致して感動を与えるものですからねー。いくら映像だとはいえ…ヘンテコな感じのオペラは嫌ですねー。よくジャ●ーズのライブは口パクだなんてことは言われてますが(笑)
高校の頃、友人と「カルメン」観に行ったのですが、そのときにスニーガ隊長をやっていた方がむちゃくちゃカッコよくてカーテンコールの時に友人とずーっと彼に向かって手を振っていたのを覚えています(超ミーハー…)

投稿: イズミ | 2006/05/17 07:12


イズミさん、おはようございます。

ナシで願いたいですね。ジャ●ーズの面々は口パクに慣れているでしょうけど、オペラ歌手はさすがにねえ。たまに突然体調不良で降板することになって、でも替わりの歌手が演出について全然分からないときなんかに、演技だけ元の歌手にやらせるみたいなことはあるようですが・・・。

投稿: Orfeo | 2006/05/17 08:57

>群衆の中にカラヤン自身が混じり込んで
どこですか??
録画しっぱなしのビデオ、捜し出して見ましたけど、見つけられませんでした^^;

フレーニ、可愛いですね。

>エスカミーリョ役のディアス
>華がない
確かに殊にお歌にないような..... 外見のほうは、
R.ライモンディを除くその他大勢エスカミーリョと比べれば、動作は華欠如というか決まらない感じだけど、容姿はかっこいいほうじゃないでしょうか^^;

投稿: edc | 2006/05/17 22:40


edcさん、どうもです。

カラヤンのカメオ出演に関しては、リチャード・オズボーンの伝記に記述がありまして、目をギョロつかせたり、ウィンクしたりして、浮き上がった演技をしている、と書かれています。で、どの場面なのかははっきり記述されていませんが、どうやら、第1幕フィナーレ、カルメンが逃亡するシーンのところで、ブラック・ハットの男が二度ほど画面に出てきて、指でなにやら合図を送りながら不審な動きを見せています。これがそうみたいです。お確かめあれ^_^;;

投稿: Orfeo | 2006/05/18 09:33

>ブラック・ハットの男が二度ほど画面に出てきて、指でなにやら合図を送りながら不審な動きを見せています。これがそうみたいです。お確かめあれ^_^;;

みたい、みたーーい。edcさん、ブログネタにいかがかしら?

投稿: keyaki | 2006/05/18 19:23

>カラヤンのカメオ出演
keyakiさんのリクエストのおこたえして、記事をアップしました。TBしましたので、判定してください^^;

投稿: edc | 2006/05/18 23:13


edcさん、映像のアップ、ありがとうございます。
とても助かります^_^;;

投稿: Orfeo | 2006/05/19 07:44

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» ビゼー「カルメン」カラヤン指揮、演出の映画版 [雑記帳]
おなじみのOrfeoさんのDVDライブラリーによると、カラヤンが群衆の中に混ざって登場ということで、好奇心を刺激され、録画したまま放置していたのを捜し出しました。 この映像に関する詳細はOrfeoさんのDVDライブラリーにお願いしちゃいますが、レチタティーヴォ版のためか、耳慣れたカルメンとは相当違う印象です。新国立劇場で見たカルメンもレチタティーヴォ版で、とんでもなく長くて、だんだんいらいらしてきて、二度とカルメンには行かないと思ったものです。やっぱり多分これ以来のレチタティーヴォ版だと思いま... [続きを読む]

受信: 2006/05/18 23:09

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