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2006/01/11

『椿姫』(ザルツブルク音楽祭)

Dvdtraviatanetrebko BS-hiにて視聴。

2005年ザルツブルク音楽祭で大評判となったプロダクション。話題の中心は当然ネトレプコ。それに最近人気急上昇中の若手テノール、ビリャソンと、安定感のあるハンプソンとで主役を固めた強力ラインナップです。

幕は最初から開いています。舞台は高さ6、7メートルほどの半円形の白い壁で囲まれていて、その壁の下にはベンチがぐるりと据え置かれ、上手の端のほうには大きな時計盤、その傍らに老人が一人座っています。下手側には大きな扉が付いていて、前奏曲が始まると同時にそこからヴィオレッタが入って来ます。彼女が舞台を横切り、その死神とおぼしき老人から一輪の白い椿の花を受け取って、それをまた床に落とし、時計盤を眺めて絶望する、というシーンが続いたところで、扉のところに夜会の客たちが姿を現わして、そのまま第1幕に入っていきます。

ヴィオレッタは赤いドレスを身にまとっていますが、あとはコーラスも含めて全員黒づくめ。死の影のごとくヴィオレッタを呑み込む勢いで迫ったりするこの群集の動かし方が実に効果的です。セットは終始変化しませんし、その中に出てくるのはソファぐらいしかありません。このシンプルな舞台の上で、ヴィオレッタが走り回ります。まるで遊眠社ばりに走り回ります(この表現で分かる人、どれぐらいいるのかな?)。なにせ祝祭大劇場の舞台は広いですから、走り甲斐があります。というわけで、ネトレプコの若々しさが思いっきり生かされたりします。スタイルもいいですしね(・・・これがちょっと年食って、その上でっぷり太った歌手がやったとしたら、喜劇になるし、身体にも悪いです)。でも、おかげで、このヴィオレッタは全然病気には見えません。彼女が走り回るのは、何かを振り切るかのようでもあり、まるで自分の運命から逃れようとしているかのようです。そこで効いてくるのは自分の命の残り時間を刻んでいる時計盤、というわけです。つられてアルフレードのビリャソンも走り回りますが、さすがにハンプソンは自重します。そんなキャラじゃないし、だいたい歳が違いますから(笑)。でも、おかげで存在感がいや増します。

さて、実はもう一人走る人がいたりします。それは、指揮者のリッツィです。こういう演出だから、というのもあるのでしょうが、素っ気無いぐらいに性急に過ぎる箇所が多く耳につきます。そこは残念ですが、その中でネトレプコもビリャソンも、そしてハンプソンも、よく歌っています。とりわけネトレプコに関しては、あれだけ動き回りながらもほとんど上滑りすることなく、ストレートにその豊かな歌唱を披露していて見事です。若いって、やはり素晴らしい・・・。

冒頭から登場した死神らしき老人はその後も舞台の中や壁の上からことの成り行きを見詰めていましたが、最後は医者グランヴィルとして登場します。そして、走ることも出来なくなったヴィオレッタはとうとう力尽き、アルフレード、ジェルモン、グランヴィルたちがベンチに腰掛けて遠くから見守る中、ひとり舞台の中央で倒れ込み、死んでいきます。そのとき、時計は・・・あれっ?どこ行った?

★★★

ヴィオレッタ:アンナ・ネトレプコ
アルフレード:ロランド・ビリャソン
ジョルジョ・ジェルモン:トーマス・ハンプソン
フローラ:ヘレン・シュナイダーマン
アンニーナ:ダイアン・ピルチャー
ガストン子爵:サルヴァトーレ・コルデルラ
ドゥフォール男爵:ポール・ゲー
ドビニー侯爵:ヘルマン・ヴァレーン
グランヴィル:ルイージ・ローニ

合  唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指  揮:カルロ・リッツィ
美  術:ウォルフガング・グスマン
演  出:ウィリー・デッカー

[  収録:2005年8月7日、ザルツブルク祝祭大劇場  ]

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コメント

Orfeoさん、TBします^^!

ほんと全力疾走って感じでよく走ってました・・
そんな映画、ありましたねぇ〜〜〜ローラ、ラン!でしたっけ?

投稿: edc | 2006/01/11 08:37

日本にいないから流行に乗り遅れ気味です(^_^;)

>遊眠社ばりに走り回ります
そんなに走り回るんですか!ネトレプコすごーい。変なとこで感心しちゃいます(笑)

>ハンプソンは自重します
ジェルモンまで走り回ったらあまりにもクレイジーすぎる演出かと思いますが、あの大きな体で駆け回る姿をちょっと想像して笑わせていただきました。

投稿: Sardanapalus | 2006/01/11 08:48


>edcさん、
TBありがとうございます。
なになに?そんな映画があるの?
一度見てみたいものです^_^;;

>Sardanapalusさん、
おおっ!遊眠社で分かるんですね!
それは嬉しいや(?)。
私はどっぷり遊眠社世代なんですよね(笑)。

投稿: Orfeo | 2006/01/11 18:02

Orfeoさん、こんばんは。
TB、どうもありがとうございます。

ネトレプコ、確かに、良く走ってましたね。(^^)
リサイタルの時も、元気でキャピキャピした感じだったので、あれは彼女の持ったものかもしれないと思ったりしました。

そういえば、女声合唱もみんな男装でしたね。あの黒い塊、かなりインパクトありました。

そして、あの大きな時計、最後はどこいったのでしょ〜(^^) 見逃した!

私からもTBさせていただきます。
どうぞ、よろしくお願いします。

投稿: snow_drop | 2006/01/11 19:35

>遊眠社世代
ということは、野田秀樹と同世代ということですね。フムフム

>ネトレプコ
下着歌手と命名してもいいですか。下着にならなかったことってあるのかしら。
ビリャソンと共に一本調子の歌唱をオーバーアクションの演技でカバー。
チケット代は高いのに、舞台も衣裳もチープで、コストパフォーマンス抜群、主催者側は大儲けのはず。ネトレプコは金の卵なんですね。

フェニーチェ座のカーセン演出の「椿姫」もなんだかな〜でしたが、この椿姫を見たら、フェニーチェ座の株がぐっと上がりました。

投稿: keyaki | 2006/01/11 20:29


>snow_dropさん、
TB返し、ありがとうございます。
実際のところ、あの時計はグランヴィル登場のシーンから消えていますね。この老人=グランヴィルを「時の翁」と捉えたsnow_dropさんのご意見は卓見だと思います。

>keyakiさん、
いやいや、あちらの方が年上ですよ(笑)。
それにしても、「下着歌手」とは手厳しい。
そういや、すぐ上半身裸になるクーラと似ている、かな?(笑)

投稿: Orfeo | 2006/01/11 21:05

TBをありがとうございます。
Orfeoさんのレビューをお待ちしていました。それにしても今回の舞台は賛否両論のようですね。どちらの意見もとても興味深く読ませていただいています。私自身は「走り回る」ネトレプコには好意的で、斬新な演出(や下着姿(^^;))についてもたっぷりと楽しみました。ところで、これは聞いた話なのですが、C・シェーファー(私のお好み)の昨年のベルリンでの椿姫も彼女だけが白のドレスで他は皆スーツ姿で、やはり賛否両論だったか(シェーファーの場合はヴィオレッタが似合うかどうかといった両論もありですが)。これって同じ演出だったのかなぁ?

投稿: YASU47 | 2006/01/11 23:44

Orfeoさん、この記事を待っていました。TBありがとうございます。ザルツの演出はいつも過激でビックリ、ガッカリする事も多いのですが、今回はネトレプコをしっかりと意識したものであるのは間違いないですね。先日のバイエルン/マイスター・ジンガーもそうでしたが、何かひとつ線が通っていると感じられれば、それはそれで楽しめる演出かな・・・なんて思っています。

投稿: ご~けん | 2006/01/12 00:27


>YASU47さん、
TB返し、ありがとうございます。
ベルリンはリンデンオーパーのことですよね。現在のプロダクションは支配人でもあるピーター・ムスバッハ演出のもののようですから、たぶん別物だと思います。

>ご~けんさん、
TB返し、ありがとうございます。
ネトレプコのためのプロダクション、って感じですね。私はネトレプコの世評の高さが今ひとつピンときていない人間なんですが、たしかに並ではないな、と思いました(笑)。

投稿: Orfeo | 2006/01/12 12:13

 Orfeoさん、こんにちは^^

実はネトレプコ版椿姫、買っちゃいましたヨ~><
なにやら皆さん、手厳しいご意見ですが・・・^^;
でも同姓から見ても麗しいです~。。
そのうちアップしますので、TBさせて下さいネ。

投稿: プラム | 2006/01/12 13:25


プラムさん、こんにちは。
うん?買ったって、CDのほうですかね。
DVDはまだ発売になってませんよね、たしか。
ともあれ、そちらでの記事、楽しみにしています、ハイ。

投稿: Orfeo | 2006/01/12 15:53

あれれ、このLa Traviata、評判良いんですね。ちょっとびっくりしました。音だけで中継を聴いた時にいちばんマシな歌を歌っていたのがネトレプコという状態の公演で、ヨーロッパ版レヴァインと名付けたい脳天気なリッツィの指揮もひどい、ビリャゾンもあいかわらず金太郎飴的な歌、ますますミュージカル化していくハンプソンの歌と、どこをとってもあまりいい公演ではないと思ったのですが。画面つきでみても、たしかにパノフスキー的「時の翁」は登場しても、ただそれだけのコンセプトで全体をひっぱっていくことはできませんね。keyakiさんはあまりお気に召さなかったようですが、去年の初稿版/カーセン/チョーフィのLa Traviataは、まさに三位一体、素晴らしい公演だったことを再認識しました。ザルツの音楽グローバリズム的な側面が顕著に出た公演だと思ったのですが。ファンの方、気に入っていらっしゃる方、すみません、悪たれついて...。ひねくれ者のこんな意見もあるんです、ごめんなさい。

>orfeoさん

edcさんがおっしゃっている映画は、何年か前のドイツ映画『ラン、ローラ、ラン』のことだと思います。日本では一時あれをパクったCMもやっていました。

投稿: Bowles | 2006/01/12 18:21

keyakiさん

>下着にならなかったことってあるのかしら。

ありまーす!さすがミカエラは下着姿ではありませんでしたぁ。

投稿: Bowles | 2006/01/12 18:26

Bowlesさん
実は、ネトレプコは、美貌とかファッションモデル並みといううたい文句が必ずついていますので、美人大好きの私は大いに期待していたのですが、、、、
渋谷にでもいそうなコギャル風でガックリ。足を広げて歩くのは、品のなさを強調する為の演出なのか、彼女のくせなのか? 

>去年の初稿版/カーセン/チョーフィのLa Traviata
おっしゃる通り、こちらの方が、素晴しい公演でした。チョーフィも大人の女性の魅力がありますしね。

ネトレプコは、ミカエラなんて歌っているんですか。
本人が「ルルが私にピッタリだから、歌ってみたい」と言っているようですが、これなら下着でも超ミニでもOkですネ。

投稿: keyaki | 2006/01/12 23:37


親切な方のご好意でこのビデオを見ることが出来ました。その直後の今日、ROHの伝統的舞台を見に行きましたが、演出としてはこういう思い切った解釈もありかな、と私は許容派です。とても新鮮だし、演出家はよく考えているなと思いました。その筋を通すためか一部歌詞を変えているところがあるのに気付きましたが、器楽曲で演奏家が様々な解釈を表現するのと同じことかと思っています。ネトレプコのメーキャップはちょっと不満ですが、それも演出家の計算の中としておきましょう。歌手ではハンプソンが不満で、これは昨年8月にラジオで聴いたときからそう思っていましたが、彼はこの役には声が軽すぎて向いていませんね。仮面舞踏会で聴いたレナートがあまりにもすごかったので余計にそう思います。

投稿: dognorah | 2006/01/14 09:35


dognorahさん、どうもです。

ハンプソンの声の軽さはどうにもしょうがないですかね。実は、次のレヴューはそのハンプソンがワーグナー作品に出ているやつなんですが、非常に困っています(笑)。

投稿: Orfeo | 2006/01/14 12:31

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