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2006/01/17

追悼:ビルギット・ニルソン

kinoken2_logo   ビルギット・ニルソンが亡くなってたんですねえ。12月25日。僕らの世代になるとビルギット・ニルソンの実演は最後の方をちょこっと聴いただけなんですけど、やっぱし、こりゃすごいなって思いましたよ。
 初めて聴いたのが、ちょうどショルティがバレンボイムと交代した頃のパリ管で、ゲルト・アルブレヒト指揮の演奏会で《ワルキューレ》最終場(ヴォータン:フランツ・マツーラ)に《神々…》最終場(1976年1月)。実はこれにはがっかり。ああ、やっぱしワーグナーってのは通しで聴かなきゃダメなんだ!って…。あの名高いニルソンでも、こんな風にしかならないんだ、なんて、コンサート後、たまたま一緒になった日本人のお客さんとしみじみと語り合ったものなんです。
 ところが、同年11月パリ国立歌劇場でやった《エレクトラ》が凄かった。ホルスト・シュタイン指揮でアウグスト・エファーディンク演出。クリテムネストラがよぼよぼの怪物じみた婆さんに作られていて、クリスタ・ルートヴィヒだったんだけど、二本の杖に縋って出てくるわけよ。そうすると舞台床に蹲って唸っていたニルソンがむくむくと起きあがって、つつーっと彼女の前へ来て、バシっと彼女の体を支える二本の杖を払っちゃうの。と、ルートヴィヒがドドーっと前のめりに倒れて…、あれはホントに凄かったよねえ…。ああー、やっぱしこの人の舞台がもっと見れなかったのは本当に残念だったと思ったよ。ホルスト・シュタインががんがん大音響でガ鳴り立てるのに負けてないんだよね。
cd-BirgitNilsson  こういうのって、実演じゃないと、つまりマイクを通しちゃうと判り難いところがあるんだけれど、この人のすごいところは人並み外れた巨大な中音域を持っていたこと。それがオケを圧して響くんだよね。その正反対だったのがズービン・メータ指揮のパリ管にモンセラ=カバリエが客演して《神々…》第三幕をやった時。この人はそういう強靱な中音域を持っていない人なんで、どう聴こえるかというと、キィーという最高音域が聴こえるわけ、それから中音域が完全に〜メータがそうブ厚い響きを立てているわけでは決してないのに…〜管弦楽の響きの中に埋没しちゃって全然聴こえないわけ。そして最低音域がウーウーって聴こえてくるわけよ。なーるほど、こういう具合に違うんだ!…と認識したというワケ。
 その次が、1978年のリサイタルだったんだけれど、やっぱしこの人は、ワーグナーの《ヴェーゼンドンク・リーダー》を含め、歌曲を歌う人では決してないんだね。それも、グリーグとかシベリウス、R・シュトラウスの比較的リリークな曲を選んだもんで、これはもう重戦車が大音響で可憐な曲をやってるって感じなんだよね。やっぱし彼女自身も、いくらお国物といっても欲求不満になるらしくて、アンコールは《トスカ》。  この間、カール・ベーム指揮フランス国立管のワーグナー・サワリ集なんてのがあったけれど、ロックをやる会場なんか使ったもんで、どうせマイクが入るだろうと思ってパス。
 最後は忘れもしない1980年12月19日のヘンリー・ルイス(…は確かマリリン・ホーンの黒人の旦那だよね)が振った放送フィルで、前半に放送局の合唱隊が《オランダ人》と《タンホイザー》の合唱を披露した後半に登場、またまた《神々…》最終場と、《サロメ》。
初めて、あっ引退かな?…って思ったのはこの時。相変わらず圧倒的な力量なんだけれど、その自慢の中音域の音程が安定せずちょっとフラついてきた。その後はもうパリには来てないんじゃないかな?…。ミュンヒェンには時々出てましたが、僕の時は決まってキャンセル。それに各オペラの間の休養日がニルソンが出る時は10日もあるんだ。舞台じゃなくて客背の方に来てやがるんだよね(苦笑)…。なんだいるんじゃないか!…なんて。
 そして、そのパリ最後のコンサートのアンコールで、驚くなかれ、最後の最後にワルキューレの雄叫びをやったのよ!、ええー!ウソでしょう、なんて(笑)。あのハヤトホー!は今でも耳に残ってます。

 それから、ニルソンの声を針金みたいだと形容する人が多いんだけど、若い頃のニルソンを聴いてご覧なさい。1950年代末のバイロイトの実況とか、エーリヒ・ラインスドルフ盤《ワルキューレ》とか…。全然針金みたいじゃないから…。ショルティ、ベームの全曲盤でのブリュンヒルデはもう声が重くなっちゃってからのニルソンなの!

きのけん

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コメント


私もあわててビルギット・ニルソンの記事を準備中ですが、もう少し時間がかかりそうです。私にとってニルソンといえば、やはりショルティの《リング》になっちゃうんですよね。針金どころか、鋼のようなブリュンヒルデ(笑)。

投稿: Orfeo | 2006/01/18 17:27

お礼が遅れてしまい申し訳ありません。
TBしていただきありがとうございました。
また遊びにお越しください。

投稿: hidamari | 2006/01/18 23:34


hidamariさん、ご丁寧にありがとうございます。
また伺わせていただきます。

投稿: Orfeo | 2006/01/19 11:06

TB頂きありがとうございます。私はあまり真面目なオペラの聴き手ではないのですが、彼女の声にはなぜか惹かれるものがあります。
歌曲も、おっしゃるとおりグリーグなんかは柄が大きすぎて違和感がありますが、意外とシベリウスはやりようによっては結構ハデな雰囲気になるので結構イケルと私は思いますが...

まあ、彼女のオペラでの唯一の愛聴盤がヴェルディのアイーダだという者のいうことですからあまり気にしないでください。
これからもよろしくお願いします。

投稿: FUJII@歌曲会館 | 2006/01/20 21:25


FUJIIさん、コメントありがとうございます。

紛らわしくて申し訳ありませんが、上の記事はパリ(郊外)在住の友人で音楽評論家のきのけんさんが書かれたものです。TBは私が送信させていただきました。
きのけんさんに関しては、左枠内の「きのけんリンク」のコーナーをご参照ください。
今後とも、よろしくお願いします。

投稿: Orfeo | 2006/01/21 09:00

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Birgit Nilsson, Soprano Legend Who Tamed Wagner, Dies at 87 (N.Y.Times) 20世紀後半の最高のワグネリアンでドラマティック・ソプラノの一人である、ビルギット・ニルソン( [続きを読む]

受信: 2006/01/18 17:51

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●B・ニルソン死去 スウェーデン人歌手ビルギット・ニルソン(Birgit Nilsson、本名Marta Birgit Svensson)の訃報ニュースを知りました。(*今日頂いたYOKOさんのコメントで初めて知りました) すでに先のクリスマスの12月25日にスウェーデンの故郷でお亡くなりになったとのこと。ネットニュースはこちら。こちらでも昨日か今日の新聞各紙でこの偉大なソプラノ歌手の死を報じていました。独WELT紙1/12付記事はこちら。経歴がコンパクトにまとまっているのはWIKIPEDIA(... [続きを読む]

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